残念なことに高速バスがまたもや事故を起こしてしまいましたね。東名阪道下り線 四日市ICと鈴鹿ICの間でWILLER EXPRESS運営のバスがダンプカーと茶畑に突っ込んだ事故ですが、死者がいないようで本当によかったです。ただ、これが茶畑ではなかったら・・高所から落ちたとしたら・・・考えただけでぞっとします。なので事故としては調査をして同じような事故が起きないようにしてほしいです。
ただ、事故を絶対に起こすな、というのは対策とは言えません。人間が運転しているわけですし絶対事故を起こさないようにする、なんていう考え方はそれこそ原発事故と同じで危険ですよね。
事故の背景から考える
事故を起こしたバスはWILLERから委託されたロウズ観光が運行していました。運転手は11日連勤ということだったそうですが、法的には問題はありません。また、勤務期間中(7年間)に事故・違反歴はなく、本年5月の健康診断では所見異常はみられなかったということです。さらに、夜勤の前に8時間以上の休憩を取っていることから、単純にブラックだった、で済ませるべきではないでしょう。11日連勤は確かに多いですが、社会人ならわかると思いますが、仕事の状況によってはあり得る話です。その分あとで代休を取ったりして調整することはままあります。居眠りだったのかどうか断定は出来ませんが、いくら寝ていても、いくら休日をとっていても眠くなるときはあるでしょうし、逆に目が冴えていても不注意で事故することだってあります。
人間が運転している以上、ミスすることは避けられません。法律違反しているような勤務体制なら問題ですが、そうでもないようです。最近はデジタルタコメーターを付けているのが当たり前で、危険運転や速度超過などはバッチリ記録に残ってしまうため、安全運転が増えているように感じます。私も高速バスをちょくちょく利用していますので、最近の高速バスが快適になっていることを記事にしたこともあります。
WILLERの功績を考える
ネットでは、その昔、NHKの某番組でWILLERが委託先からの値上げ要求を突っぱねてその会社はつぶれたとかなんとかいう話も見かけました。真偽の程は置いておいて、それで一体、何が悪いのでしょう?資本主義でビジネスでやっている以上そういうことはごく普通にあります。むしろ、利用者から見ればWILLERのおかげでかなりの格安運賃で利用出来ている現状があるわけです。地方の雇用がうんぬん言って効率わるくて高い運営するほうがよっぽど社会の害悪だと思います。日本は利権の国ですから往々にしてそういう分野は多いですが、WILLERはそんなバス業界では頑張っていると思います。今回の事故で、WILLERのトップページでは事故についての謝罪と事故の状況についてのページがありますが、ロウズ観光のトップページにはまったく事故についての情報は見られません。ある意味清々しいというかなんというか。なにかその辺の発表については会社間の契約など様々な事情があるでしょうから一概に悪いとも言えませんね。
利用者により安い賃金で移動する選択肢を用意し、ネットで簡単に予約もできるようになっているWILLERは、若者中心に利用している方も多いと思います。たしかに安いです。そこで安全性が犠牲になってはいけないため、法律がある。そして今回は法律違反ではない。しかし事故は起きた。
法律が悪いから法律を変えてより規制を厳しくするとしましょう。で、それで事故が減るんでしょうか?運転手をたっぷり休ませて、何人も交代要員を乗車させればそれで事故が減るんでしょうか?
もしかしたら、居眠りが原因だった→瞬き検知カメラで運転手の状態をリアルタイムで把握→居眠りの傾向が見られたら音や振動などで起こす
とかいう機械ができて、それを導入したら劇的に事故が減るかもしれません。要は規制ではなく、技術で解決出来るかもしれませんし、その他の方法があるかもしれません。何が適切なのかわからないので、しっかり調査をしなければならないです。安易に事故→規制強化に動いて欲しくないです。
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別に私はウィラーの回し者ではありませんし、特別好きでもありません。ただ、このような事故を受けて、ちゃんと調査もせずにとりあえず規制を強化するという方向に走ると、当然乗車賃があがります。もちろん安全が優先なのは間違いありませんが、私が言いたいのはちゃんと調査して慎重に対策しないと、沢山の規制と運賃だけ高くなって事故の確率は変わらないということも充分あるのではと思っています。
ところで、今回の事故でtwitterで色々検索していたんですが、
ウィラーのバスがひっくり返ってる!!バンギャの戦車が!! pic.twitter.com/Vv8NRG9dZt
— 蟻さん (@otsukai_arisan) 2015, 7月 13
というツイートが秀逸でした。バンギャとはバンギャルの略で、
バンギャルとは、ヴィジュアル系バンドの熱心なファンである女性を指す言葉である。 ヴィジュアル系バンドのファンの通称・総称として使用されることもある。 バンギャ、ギャと略すこともある。 また年齢を重ねたバンギャルや、長くバンギャルをやっている女性をオバンギャ、バンギャルの男性版を「バンギャル男」「ギャ男」と呼ぶ。
バンギャの戦車という表現に思わずグッと来てしまいました。高速バスは結構若い女性がドドッと乗っておられることも多いですが、戦車だったんですね・・・。安い運賃のおかげで色々なところに若い方が行ける重要な交通手段なわけですから、社会の重要な交通という高い誇りを持って安全対策に望んで運営していただきたいです。
コメント
「資本主義でビジネスでやっている以上」ルールを守って、ゲームに参加することは当然の前提です。当時のNHKの番組で問題になったのは、ウィラーが下請け会社に対して公示運賃を下回る金額を、当たり前に要求したからです。そういう違法な契約を結ぶことをウィラーが強要していたのが問題なのです。
バス業界での規制緩和のひとつに、参入障壁の低下という特徴があります。それまでの事前チェックから事後チェックの重視に切り替えるというものです。その結果、特に土地の安い地方を中心に、バスを数台所有するだけの零細バス会社が乱立することになりました(事故を起こしたロウズがそういう会社なのかどうかは知りませんが)。どこまで一般化して言っていいのかは躊躇しますが、農閑期の食い扶持を確保したいという動機で起業した会社も多いそうです。ウィラーが下請けとして目をつけたのが、まさにこういう零細バス会社です。
「事前チェックから事後チェック」ということは、結果責任です。始めるのは勝手だけど、違法行為や事故があれば処分するよ、ということです。事故を起こしたのだから、ウィラーが悪いしローズが悪いのは当然です。社会的に非難を浴びて然るべきです。
2012年の関越道事故を契機としたいわゆる「乗合一本化」により、NHKの番組当時とはルールの状況は若干変わりましたが、「乗合バス会社が貸切バス会社に運行委託する」という枠組みは温存されました。記事の事故でいう、ウィラーがロウズに委託するという関係です。バス事業のコストの大部分は人件費です。ウィラーが自前の運転手を使うより下請けの運転手の方が人件費が安いから委託した…これだけのことが経営努力とでも言うのでしょうか。
あえて、ウィラーのこの業界での実績を挙げるとすれば、座席(残席)管理でしょう。簡単に言えば、ネットを駆使して期間限定の各種割引運賃などを設定して、売れ残りを極力なくすという販売戦略です。でもこれは、IT+旅行業でのイノベーションであって、バスを運行するという事業に何か革新性を持っているわけではありません。
ウィラーには「社会の重要な交通という高い誇りを持って安全対策に望んで運営」なんてできるはずもないし、その気もないでしょう。「資本主義でビジネスでやっている以上」それが当然だとも思います。「誇り」なんて1円の利益にもなりませんから。
私はウィラーが嫌いです。でも、それ以上に、ウィラーのようなビジネスモデルを許している交通政策が間違っていると思います。