夏目漱石の本で感想なんて書けるかな・・・という感じではありますが、読書メモを残しておこう。
私は夏目漱石が好きで、ちょくちょく読んでます。青空文庫で読めますしね。
画家の旅の1コマ
ごくごく自然に旅の途中からはじまるリアルな情景で、これは著者が自分の事を書いているのか?自分が旅をしたときのことかな?と思って読み進めていました。
結局、物語がかなりすすんで、この主人公がどうやら趣味や気晴らしではなく職業としての画家なのかということに気づくまで結構かかりました。
もう少しちゃんと説明してほしいよね、と思ったのは私だけだろうか。むしろそれがいいのかもしれません。主人公のことはセリフ以上のことはなにもわかりません。
どうもスランプなのか、絵を全然書こうとしません。詩をたくさん書いていますが、いったいいつ絵を描くんだと思って読み進めますが、全然描けない描けない言ってます。
ただ、芸術家としての考え方、物の見方というのがこれでもかこれでもかと押し寄せてきます。正直私には理解出来ないことのほうが多いくらいの素晴らしい描写です。
旅で泊まった旅館で知り合った人たちとのからみなどもサラッとした中にも人間味のある不思議な世界を味わうことができます。旅の魅力とはこのようなものなのでしょう。
この小説の最も有名な部分は冒頭の部分ですね。
智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
けだし名言ですね。この物語の軸となっています。特に都会に疲れた主人公という描写は節々に出てきます。
那美さんとの不思議な交錯
重要なキーパーソンである温泉宿の若奥様の那美とのやりとりは非常に引き込まれます。出戻りである彼女の不思議な魅力と謎。主人公を上品にひっかきまわす那美さんはどんな人なんだろうと私なりに色々想像するのですが、なかなかはっきりと想像出来ない不思議な人です。
物語の中でもやはり不思議な人で、どうにもカラッと飄々とした性格の中にも陰鬱というか何かを避けているような裏の雰囲気が出ている、まさに漱石の話に出てきそうな人物です。
この人と主人公はどう絡んでいくんだろう、それともあっさりとすれ違って去ってしまうのか。周りの絶妙なモブキャラたちもいい味を出しており、物語自体は大変面白くページをめくる手が止まりません。が、ちょくちょく芸術家としての哲学や思考・葛藤などが差し込まれ、非常に難解な表現にあふれ、私の頭では到底理解できない描写の多いこと。何回か読むのですが本当にさっぱりわからない。漱石作品ではたまにあることで、私の場合、わりとすっと諦めて通り過ぎます。
終盤は一気に訪れ、あっっ、という感じで終わります。最後の数ページが非常に濃密で、その他はストーリーとしては薄いですが、この薄い部分が全体の8割占めていることが大事なのです。パレートの法則ですね。なんとも夏目漱石作品、という感じで終わります。
芸術が分かる人には、絶対名作だと思います。私はわからないなりに、すごいなぁで終わりましたが、満足したからいいんです。